06. 体の手入れ(食べる、鍛える、楽しむ)

脳の活性化

 「最近歳のせいかどうも記憶力が今一つ...」というような言葉をまま耳にしますが、私自身の経験から言えば、「歳をとると記憶力が低下する」という主張には事実の裏付けはありません。

 一般に「記憶力は十代の頃が最高で後は衰え、思考力は三十代の頃が充実する」といった説が普及していますが、個人的には、思考力、直感力はもちろん、記憶力自体も今がベストコンディションと感じられ、しかもこれからさらに磨きがかかりすれ、衰えることは予測していません。

 「脳細胞は新しく増えないので死滅して数が減るばかり」と言いますが、多少数が減ったところで常人では大部分の細胞は手付かずのままなのですから、どうということはなく、残っている分を開発し続ければよいはず。

 ちなみに死滅の大きな原因にはタバコとお酒が挙げられます。毎度しつこいようですが、タバコは血管を収縮させて血流量を減らし、脳への酸素の供給量を下げます。脳というのは人体の中でもっとも酸素消費量の多い場所で、それだけ酸素の不足に敏感(ちなみに脳が体の他の部分よりも酸素供給の遮断に弱いのが脳死という現象が起こる原因です。つまり呼吸が止まり酸素の供給が停止して10分もすると、体の他の部分はまだ蘇生可能でも、脳は回復できない)。

 それでは脳の機能をフルに開発するにはどうしたらよいか。以下は私自身の実体験に基づくノウハウです。

  (1)右脳と左脳をバランスよく使い、同時にその統合を進める
  (2)脳の新皮質と旧皮質、大脳と小脳、間脳など異なる領域をバランスよく使い、同時にこれらの領域間の統合を進める
  (3)脳を含む中枢神経と抹消神経(神経系全体)と全身の身体機能の統合を進める  つまりは脳と体全体をくまなくバランスよくすみずみまで使いこみ、特定のパターンが脳と体に固定するのを許さないということにつきるでしょう。

 使わなければ錆びるというのはすべての身体機能、とくに脳については不問律。「最近どうも記憶力が...」とぼやいている人はそもそも自分がどれだけ脳の記憶領を積極的に使っているかを振り返るべき。「なかなか覚わらないので...」と、新しいことを学ぶの自体をおっくうがっているのではないでしょうか。

 右脳と左脳をバランスかつ効率よく開発するための方法としては、語学の学習、コンピュータのソフトウェアの操作の習得、プログラミング言語の習得やそれを使っての作業などは最適。

 裏返して言うと、やりたくとも語学の学習が進まない、コンピュータの使い方など新しいことを学ぶのが苦手、という場合には、脳はすでに老化の兆しを示しているので、「人並みの老化」を経たくない人は速やかに手を打つことが必要です。

 右脳と左脳の担当領域の基礎的な説明については、巷にたくさん本が出ているのでそちらを参照。自分がどちらの脳を偏って使いがちかもチェックして、バランスをとらせるための工夫も必要。個人的に勧めるのは『右脳の冒険』などコリン・ウィルソンの本です(ただし「右脳開発のみがすべての答え」ではありません。この点については後述)。

 旧皮質や小脳、間脳を開発し、それを新皮質ないし大脳に統合する、また脳と神経系および全身の身体機能を統合するのに優れたの方法の1つは、エミリー・コンラッドにより創設されたContinuum(コンティニュアム、内発的な体の動きと呼吸法の組み合わせ)ですが、運動はどのようなものでも脳と神経系への刺激になるので、ヨガや太極拳、道引術など、体の動きと呼吸法を組み合わせたものを試してみるのもよいでしょう。

 これらはコンティニュアムと同一の効果を持つわけではありませんが、それでも普段あまり体を動かすことのない人にとっては、身体機能を活性化し、そこから脳に刺激を与え始めるためのよいステップです。

 またよい教師に恵まれれば、グラウンディングや、体とエネルギーの統合、呼吸を通しての感情の調整にも効果を発揮します。

 水との関係によって神経系の調整効果を得、呼吸機能を整え強めるということでは、ダイヴィング(スキン、スキューバ、フリー)もお勧めです。エアロビクス効果の加わる水泳もよいでしょう。また身体感覚を豊かにするには定期的にマッサージを受けたり、手先を使う仕事を行うのもよいのです。

 [この原稿は1997年のものですが、1999年の時点の新情報として、アメリカの大脳生理学研究者の間で、成人の脳でも新しい細胞が作られること、しかも新しい細胞増殖の活性度は個体の運動量に比例することが確認されています。]

 ヴィタミン剤やハーブの中で脳を活性化し老化を防ぐ効果がアメリカやヨーロッパの臨床リサーチで確かめられているものとしては、レシチン、ヴィタミンB12、銀杏の抽出液、そしてPSフォスファチジルセリンなどが挙げられます。

 B12は神経細胞のミエリン鞘の形成を助けます。アメリカでの60歳以上の健康な人を対象にしたリサーチによると、血中のB12レベルが低い人は、正常な人に比べて抽象思考をするのが難しく、記憶力も低かった。またB12欠乏症患者を対象にした別のリサーチでも、思考力が低下し、記憶に混乱が見られることが観察されています。そしてB12の投与を開始してすぐに思考力の回復が見られたということ(ただし2人の例外があり、これらの患者は単なるB12欠乏ではなく脳の器質に異常が見られた)。

 単に欠乏症を防ぐだけでなく、ポジティヴな効果を出すためには、最低でも1日量で50マイクログラム以上のB12を、他のB類とバランスよくとることが必要です。B12は日本でも比較的入手しやすく、質の良い顆粒状のものが薬局などで買えます。

 B類に限らず、ヴィタミンやハーブはできるだけ水溶性に加工されて液状になっているのものか、顆粒状で水にすぐ溶けるものをもとめます。またBやCのような水溶性ヴィタミンはとり過ぎれば単に排出されるだけですが、かわりにとりだめもきかないので、最低でも毎日、できれば1日複数回にわけてとるのが理想。

 銀杏(いちょう)の抽出成分は脳に供給される血液量を増加させ、結果として脳の機能を高める効果があります。リサーチでは、40ミリグラムの抽出液を1日3回、24週間にわたり投与したところ、脳の機能テストで明らかな向上が見られています。

 日本でも製品を見かけているので、興味のある人は薬局や自然食品店で探してみるとよいでしょう。良質なのはヨーロッパ(スイスかドイツ)製の液状のもので、standardized extract、24 percent ginkgoheterosides(標準化された24パーセント抽出成分)を40ミリグラム以上含むものです。単に銀杏を粉末にしただけのものは吸収も悪く、実際に薬効成分がどれだけ含まれているかわかりません。

 なおとり始めてしばらくの間、首がこるような症状が出ることがあります。これは首から頭にかけての血管が拡張することに関係しているようで、服用を続けていれば、(あるいは服用を止めても)じきに消えるはずです。

 フォスファチジルセリン(PS)は脳内の神経細胞が働くのに使用するケミカルメッセンジャーで、服用することで老化による神経細胞の損失を防ぐ効果が認められています。40代以上で記憶力の衰えが見られる場合に服用すると、ある程度の記憶力の回復が見られるという報告もあります。400人以上の老齢者を対象に100ミリグラムの投与を6カ月続けた試験で、プラシーボ群と比べて明らかに記憶力と学習能力に差が出たということです。

 PSは現在日本ではまだ手に入るかどうかわかりません。アメリカでは大きな自然食品店で大豆から抽出した製品を求めることができます。

 レシチンはやはり大豆から抽出した良質のものが日本でも出回っていますが、良質なのはアメリカのLewis Lab社などから出ているフォスファチジルコリンを含んだものです。なお普段から大豆食品をふんだんにとっている人は、サプリメントとして追加のレシチンやコリンをとる必要はあまりないかもしれません。大豆にはB群、フォスファチジルセリンもある程度含まれています。

 脳の活性化の話が出たついでに、左脳の機能の重要性についても少し。

 去年のはじめ頃、スーパーヴァイザー(監査役)を頼んでいる先輩に電話でセッションを受けていた時のことです。次々とエネルギー的にも肉体的にも大きな変化を通り越していく私は彼女にとっても面白い観察対象のようで、その時も電話ごしに私の脳の機能とそれに伴うエネルギーの変化を読みながら「これで今までわからなかったことがわかったわ!」等と叫んでいました。

 その時に二人で発見したことに、現代人では左脳が、右脳からも体全体の感覚/触覚機能からも孤立した形で機能していること。そして脳の機能のいわゆる科学的定義が行なわれ始めて以来、左脳は逆にその本来の機能を拘束されてきているということ。

 というのは左脳の特性として、言葉を文字通りに受け取る傾向があり、科学によって「左脳とは論理、直線思考の座であるのみ」と定義されるや、その通りに自己の機能を限定し、その範囲でしか機能しなくなっているということ。現代人にとっての課題の一つは、したがって、左脳を定義の呪縛から解放し、本来の伸びやかで全体的な形でその機能を育てることであること、というのがありました。

 最近ロバート・モンローの最終作『Ultimate Journey』を読んでいて、彼の左脳の機能についての記述に出くわしました。ロバート・モンローは有名なOBE(体外離脱体験)の元祖。1950年代から体外離脱を経験し始め、それを実証的・プラグマティックな態度で記録した彼の著作は今でも同分野での古典とされています。

 さらにヴァージニア州にモンロー・インスティテュートを設立、多数の研究者や技術者の協力を得て、「誰でも」体外離脱体験をできるように導くためのテクニックやオーディオテープなどを開発。またその一環として、ヘッドフォンを通してテープを聴くだけで右脳・左脳を自動的にシンクロナイズさせるヘミシンクテクノロジーが開発されました。

 彼は「右脳的機能は魂が持って生まれた自然の機能であり、新たに『開発』される必要はない(その機能を「開く」だけでいい)。物質世界に転生することの目的の一つは、自己意識や直線思考能力、判断力、問題解決能力などを開発することであり、それはつまり左脳的機能を開発することである」と指摘します。

 これは大半のいわゆるニューエイジタイプの人々が誤解している点でもあるしょう。つまり「右脳を優先しフィーリングを中心に生きれば、世界は平和、人々は幸せになれる」的な考え方で、何でも「シンプルで易しいのが正しい」と決めて、長期の訓練や積み重ね、深く込み入った思考や理解を必要とするものを避ける傾向。

 確かに、真理とはシンプルなものです。けれどもそのシンプルさを理解し、その本質を悟るには、成熟した心、理解力と思考力が必要なのです。赤ん坊の持つ純真無垢なシンプルさと、成熟した人間の持つ洗練され蒸留されたシンプルさを同じものと考えるのは誤解であり、努力することを好まない人間のわがままです。真のシンプルさに到るためには、複雑で込み入った現象やパターンをよりわけ本質を見極める能力が必要であり、それには右脳の直感と左脳の判断力の両方が必要なのです。   

(1997)

[追加記事] 語学学習による脳の機能の整備の可能性  以前、脳の手入れに関する記事で語学学習の効能について少し触れたが(テキストはウェブサイト www.lifeschool.org のライブラリに保存)、4月14日午後の米国公共ラジオ放送の健康番組で面白い話を耳にした。その日のテーマは脳についてだったが、電話をしてきたある女性視聴者は、てんかんと言語障害に悩んでいたが、外国語の勉強を始めたところ、英語の言語障害まで快方に向かった上にてんかんも起きなくなったという(電話の声を聴いている限りでは言語障害はまったく感じられなかった)。

 てんかんに悩む患者をエネルギー面で観察すると、通常、左脳と右脳のつながりがぎくしゃくしており、とくに片側に「静電気の嵐」のような、乱れたエネルギーがちりちりと発生していることが多い。これをバランスさせて鎮めてやることができると、てんかんの最中でも通常より早くおさめて意識を回復させることができる。

 長期的なハンズオンヒーリングでは、左右の脳のバランスと各部位の統合が主要なステップとなる。上記の女性の報告は、本人が能動的に脳を使い両半球の統合を進めるだけでも直接的な治療効果につながることがあるという実例で、このような自己ヒーリングとハンズオン・ヒーリングを組み合わせることで、治療不可能とされているてんかんに取り組む可能性が見えてくる。

(2002)

バイリンガルになると脳の灰白質が変化する

 「バイリンガルの人の脳では、言葉の流暢性に関係する脳領域の灰白質の密度が高くなっていることが、今週号のBrief Communicationsで報告されている。この結果からすると、成人する前に母語以外の第2の言葉を修得することで、脳の構造に影響がもたらされるらしい。

 A Mechelliたちは、第2の言語を子ども時代と成人後のどちらかの時期に修得したバイリンガルの人(英語とイタリア語)の脳を、母語しか使えないモノリンガルの人の脳と比較してみた。すると、第2言語を覚えた年齢が低いほど、またその言語の習熟度の高い人ほど、左脳の下頭頂皮質の灰白質密度が高かった。」

(『Nature Japan』、2004年10月14日号)

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